農林水産省は、「種苗法施行規則の一部を改正する省令案」を公表しました。今回の改正は、新品種登録審査に対応するための植物区分および学名・和名リストの見直し、さらに栽培試験手数料の新設・変更などを行うものです。国際条約(UPOV条約)における植物分類の改訂も反映し、審査基準の整合性を高めます。公布・施行は2026年3月中旬の予定です。
改正の背景
種苗法第2条第7項および第5条では、品種登録の出願時に「植物の種類」を明示し、審査指標となる重要形質(Distinctness, Uniformity, Stability:DUS)を基準に審査が行われます。
そのため、農林水産省令(施行規則)別表第1・第2に定める植物区分や学名リストが、出願の実態や国際基準に応じて随時更新されてきました。
近年、新たな園芸植物・作物の育成・出願が増加し、国際的な分類基準(植物新品種保護国際同盟=UPOV)の改訂も行われたことから、現行の区分・名称体系を見直す必要が生じました。
また、栽培試験の内容多様化に伴い、特別な試験を要する形質ごとの手数料体系を整備することとなりました。
改正の主なポイント
① 植物区分(別表第1)の追加・変更
- 新たに重要形質を定める必要のある植物を追加。
- 既存の区分に属する植物についても、形態・遺伝的特性の知見を踏まえ区分・属の見直しを実施。
→ 審査の精度を高め、品種特性の判断をより客観化。
② 学名・和名リスト(別表第2)の更新
- 新たな植物種の出願に対応し、学名および和名を新設・改正。
- 国際学名の変更(シノニム統合等)を反映し、国際的分類と一致させる。
→ 出願書類での表記統一・審査の効率化につながる。
③ 栽培試験手数料(別表第3の3)の新設・改定
- 特別な栽培試験が必要な植物区分について、重要形質ごとの試験手数料を新設・変更。
- 既存区分の形質内容変更に伴い、手数料の区分再編を実施。
→ 費用負担の明確化と審査費用の適正化を図る。
④ 類似植物区分(別表第4)の改正
- UPOV(植物新品種保護国際同盟)の**2024年10月25日改訂版「品種名称に関する解説書」**で示された類似植物の区分改訂を反映。
- 同種・近縁種間で混同のおそれがある名称の判断基準を国際整合化。
→ 品種名称の重複防止と国際的保護制度との整合性を確保。
実務への影響・対応策
今回の改正は、品種登録出願を行う育成者・企業・試験研究機関に直接影響します。
- 出願時に使用する植物種名・学名リストの最新版への差替えが必要。
- 栽培試験の新手数料区分に基づく費用見積・予算調整が必要。
- 類似植物の改訂により、名称審査・商標登録との整合確認を再点検。
- 新区分対応に向け、試験場や登録審査担当者のマニュアル更新を要する。
特に、果樹・花卉・観葉植物分野では新種追加が多く想定され、国際出願(海外での保護申請)を行う際にも影響します。
施行時期と今後のスケジュール
- 公布・施行予定:2026年3月中旬(公布日施行)
- 施行前に農林水産省から詳細な別表改正版・学名リスト・手数料表が告示予定。
- UPOV分類改訂に基づく国内運用指針(品種名称ガイドライン)も同時期に改訂見込み。
まとめ
今回の改正は、品種登録制度の国際整合性を維持しつつ、出願・審査プロセスの合理化を図るものです。植物区分・学名リスト・手数料体系の更新により、新品種開発・保護の迅速化と透明性が高まります。
出典:農林水産省「種苗法施行規則の一部を改正する省令案の概要」(令和7年10月)