文化庁は、「著作権法施行令の一部を改正する政令案」を公表しました。今回の改正は、2023年の著作権法改正(令和5年法律第33号)で創設された**「未管理著作物等の利用裁定制度」**の運用に関し、補償金の管理・支出に関するルールを具体化するものです。指定補償金管理機関が行う「著作物等保護利用円滑化事業」に充てる支出額の算出方法が新たに定められます。施行は2026年4月1日です。
改正の背景
従来、著作権者の所在が不明な著作物の利用は、「現行裁定制度」により文化庁長官の裁定を得て可能とされていました。しかし、近年のデジタル化・アーカイブ需要の高まりにより、利用希望が増加する一方で、権利処理が停滞する「未管理著作物」問題が顕在化。
2023年改正法により、従来の裁定制度を拡充する形で、未管理公表著作物等の利用裁定制度が創設されました。
この制度のもとでは、利用者が補償金を支払い、指定補償金管理機関が一括で受領・管理します。今回の施行令改正は、その運用に不可欠な「補償金残余の支出基準」を明確に定めるものです。
改正の主なポイント
① 補償金管理機関の支出額算出ルールを明示
指定補償金管理機関が「著作物等保護利用円滑化事業」に支出できる額は、
当該事業年度の補償金等残余額から次の金額を控除した後、さらに事務費(最大3割)を差し引いて算出することとされます。
- 一:現行裁定制度分 → 補償金等残余額の1〜10%以内(文部科学省令で定める割合)
- 二:未管理著作物裁定制度分 → 補償金等残余額の10〜30%以内(同省令で定める割合)
これにより、機関の支出範囲が明確化され、透明性と適正管理の確保が図られます。
② 「補償金等残余額」の定義を明文化
補償金等残余額とは、前年度に収受した補償金の総額から、権利者等に支払った額や関連費用を差し引いた残りの金額を指します。この残余を基に翌年度の支出可能額を算出します。
③ 文部科学省令で詳細割合を設定
具体的な割合は、後日公布される文部科学省令で定められ、補償金の性質や利用状況に応じて柔軟に運用されます。
実務への影響・関係団体の対応策
この改正により、著作権管理団体・アーカイブ機関・放送事業者などが、未管理著作物をより利用しやすくなります。一方で、指定補償金管理機関(例:一般社団法人SARTRASなど)は、以下の対応が求められます。
- 補償金管理システムの改修(裁定制度ごとの残余額管理・算定機能追加)
- 年度末の残高報告・事業報告様式の統一
- 補償金運用の透明化・公表体制の整備
- 文部科学省令公表後の算出モデル更新・監査対応
文化庁も、利用促進と権利者保護のバランスをとる運用ガイドラインを策定予定です。
施行時期と今後のスケジュール
- 公布日:2025年(予定)
- 施行日:2026年4月1日
これに合わせて、未管理著作物裁定制度も本格運用が開始される見通しです。文化庁は、施行前に指定補償金管理機関の指定・監督基準、報告様式等を整備する予定です。
まとめ
本改正は、著作権者不明作品や未管理著作物の利用を円滑化する新制度を支える「実務基盤整備」です。補償金の収支構造を明確化することで、権利者保護と文化資源の再利用促進を両立させます。今後、図書館・放送・教育・アーカイブ分野での著作物利活用が一層進むことが期待されます。
出典:文化庁「著作権法施行令の一部を改正する政令案の概要」(令和7年10月)