厚生労働省は、「知的障害者福祉法施行令の一部を改正する政令案」を公表しました。今回の改正は、2025年10月に新設された障害福祉サービス「就労選択支援」を、知的障害者福祉法上の「やむを得ない事由による措置」の対象として位置づけるものです。これにより、市町村が本人による介護給付費等の支給申請が困難な場合でも、就労支援を確保できる仕組みが整います。公布は2025年12月、施行は公布日です。
改正の背景
知的障害者福祉法第15条の4では、市町村が「やむを得ない事由により介護給付費等の支給を受けることが著しく困難」と認めた場合、同法施行令に定める基準に従い、障害福祉サービスの提供や委託を行うことができます。
一方、障害者総合支援法では2025年10月から、新たに「就労選択支援」が創設され、就労系サービスの利用意向がある障害者に対し、就労ニーズの把握や能力・適性評価、就労後の配慮事項整理などを支援する仕組みがスタートしました。
この新サービスを利用する対象の中には、家庭環境や支援体制の制約により、通常の支給申請手続が困難な知的障害者が想定されます。特に、里親委託児童や小規模住居型児童養育事業の委託対象者で、特別支援学校卒業後の進路選択支援が必要なケースが該当します。
こうした背景から、「やむを得ない事由による措置」においても就労選択支援を提供できるよう施行令を改正し、支援の途切れを防ぐ体制を整備するものです。
改正の主なポイント
「やむを得ない事由による措置」に就労選択支援を追加
知的障害者福祉法施行令第3条を改正し、同条に定める対象サービスの基準に「就労選択支援」を追加します。これにより、通常の申請手続ができない場合でも、市町村判断により就労選択支援を利用させることが可能となります。
支援の想定ケースを明示
主な対象は、家庭環境等の理由で自立申請が難しい知的障害者、特に
・里親または小規模住居型児童養育事業に委託されている障害児等
・特別支援学校卒業後に進路選択の支援が必要な者
とされ、既存の生活・就労系サービスとの接続を円滑にします。
障害者総合支援法との整合
就労選択支援は障害者総合支援法第5条第13項に基づく新設サービスであり、今回の改正により知的障害者福祉法側の運用基準とも整合が取れるようになります。
実務への影響・自治体の対応策
市町村や福祉事業所は、次の点に留意した運用準備が求められます。
・「やむを得ない事由」に該当するかの判断基準を明確化し、支援記録・同意書の様式を整備
・特別支援学校、児童相談所、里親支援機関との連携体制を強化
・支援決定からサービス利用開始までのスピード化(進路選択期に対応)
・事業所側では、就労アセスメント記録・就労配慮事項のフィードバックを標準化し、教育現場との情報共有体制を確立
また、やむを得ない事由による措置での支援は、通常の支給決定と異なり財政負担の所在が市町村に生じるため、予算・委託費の確保も重要です。
施行時期と今後のスケジュール
改正政令は2025年12月公布・即日施行予定です。
各自治体は、2025年度内に要綱改訂と関係機関連携を整備し、2026年度からの就労選択支援活用事例に対応できる体制を整えておく必要があります。
まとめ
今回の改正は、知的障害者の進路選択支援における“支援の空白期間”をなくすための制度整備です。就労選択支援が新たに「やむを得ない事由による措置」の対象となることで、家庭環境や申請能力に左右されず、必要な支援を受けられる道が開かれます。市町村は支援判断の運用ルールを整備し、教育・福祉・雇用の連携による切れ目のない支援を実現することが求められます。
出典:厚生労働省「知的障害者福祉法施行令の一部を改正する政令案について(概要)」(令和7年10月)