東京地方裁判所は2025年4月22日、航空会社の客室乗務員たちが「休憩時間が与えられない勤務を命じられた」として会社を訴えた裁判で、労働基準法違反を認め、一部勝訴の判決を言い渡しました。
訴えたのは元客室乗務員を含む30名以上の原告たち。彼らは、国内線や国際線のフライトで、6時間や8時間を超えてもまとまった休憩が取れない勤務が常態化しているとして、精神的苦痛に対する慰謝料の支払いと、今後の「休憩なし勤務の差止め」を求めていました。
会社の主張:「業務上、休憩を取らせられない」
被告である航空会社は、「天候や空港事情でスケジュールが左右されるため、指定の時間に休憩を取らせるのは不可能」「便間の待機時間や機内での“クルーレスト”が実質的な休憩にあたる」と反論しました。
つまり「客室乗務員は特殊な職種だから、休憩を与えなくてもいい」という理屈です。
裁判所の判断:「実際には緊張から解放されていない」
しかし、裁判所の判断は異なりました。
判決はまず、客室乗務員が「長距離にわたって継続して乗務する者」に当たらないとして、労働基準法施行規則32条1項(例外規定)の適用を否定しました。
さらに、機内でのクルーレスト(交代休憩)についても、「客室乗務員は乗客対応や緊急事態への備えが常に求められ、心身ともに緊張から解放されていない」として、休憩時間には該当しないとしました。
また、フライト間の短い「便間時間」も、客室清掃や次便準備などに追われており、自由時間とは言えないと判断しています。
「安全配慮義務違反」と「人格権侵害」
そのうえで裁判所は、会社が休憩を与えなかったことは労働者の心身の健康を守る義務(安全配慮義務)に違反するとし、
各原告に対して**11万円(慰謝料10万円+弁護士費用1万円)**の支払いを命じました。
さらに注目すべきは、現職の乗務員たちによる**差止請求(今後の違法勤務の禁止)**を一部認めた点です。
裁判所は、「会社が今後も休憩を付与しない勤務を命じるおそれがある」として、人格権(心身の健康に基づく権利)の侵害が継続する蓋然性があると判断しました。
このため、今後も同様の勤務命令を出すことを一部禁止しました。
実務への影響──「形式上の休憩」では許されない
この判決は、航空業界に限らず、多くの企業に警鐘を鳴らす内容です。
特に、**「業務の合間に手待ち時間がある」「空き時間もあるから休憩とみなせる」**といった考え方は、
実際に労働者が心身をリラックスできる状態にあるかどうかで判断されることを明確に示しました。
つまり、**「実質的に仕事から解放されていなければ、それは休憩ではない」**という原則です。
人手不足やシフトの都合を理由に休憩を削ることは、法的リスクを伴うことがあらためて確認されたといえるでしょう。
労務管理者・経営者へのメッセージ
休憩時間の確保は、単なる“形式的義務”ではなく、従業員の安全と健康を守るための最低基準です。
裁判所が「人格権侵害」という強い表現を使ったことは、企業に対し、**「働きやすい環境づくりは法令遵守の問題である」**というメッセージを投げかけています。
特に、変形労働時間制や交代勤務を採用している企業では、実際に休憩を取れているかを現場レベルで点検することが不可欠です。
「勤務表に休憩時間を記載していない」「手待ちを休憩扱いしている」といった運用は、今回のように違法と判断されるリスクが高いといえます。
まとめ:判決のポイント
- 客室乗務員の“クルーレスト”や“便間時間”は休憩に当たらない
- 実質的に仕事から解放されていない時間は「休憩」とは認められない
- 会社の行為は安全配慮義務違反・人格権侵害に当たる
- 各原告に11万円の支払いを命じ、今後の「休憩なし勤務」の一部差止めも認めた