2025年6月11日公布の**「自殺対策基本法の一部を改正する法律(令和7年法律第64号)」は、
こどもの自殺対策を明確に位置づけ、学校・教育委員会・医療機関・警察・自治体が一体で支援する体制を整えることを柱としています。
所管はこども家庭庁**で、公布から6か月以内(2025年12月頃)に施行予定です。
改正の背景
近年、18歳以下の自殺者数が過去最多水準で推移しており、特に中高生世代の自殺が増加しています。
これを受け、政府は「こども家庭庁基本方針」(2024年策定)に基づき、教育・医療・福祉・警察が情報を共有する総合的な自殺対策ネットワークの法制化を決定しました。
また、SNS・ネット上の誹謗中傷や自殺関連情報への対策も急務とされています。
改正の主なポイント
1. 基本理念の追加(第2条関係)
自殺対策における基本理念として、次の2点が新たに追加されました。
- デジタル社会における対応
AI・ICTを活用した支援の推進とともに、インターネット上で流通する自殺関連情報の影響に配慮し、適切な対応を行うこと。 - こどもの自殺対策の明記
こどもが健やかに成長し、権利利益が守られる社会を実現するため、社会全体でこどもの自殺防止に取り組むことを基本理念に追加。
2. 国の責務の強化(第3条関係)
内閣総理大臣、文部科学大臣、厚生労働大臣が、こども家庭庁を中心に緊密に連携し、
こどもの自殺実態を踏まえた施策を策定・実施する責務を明記しました。
複数省庁にまたがる縦割り構造を是正し、教育・福祉・医療が連動する国家レベルの対策体制を構築します。
3. 学校の責務(第5条関係)
学校に対し、基本理念に基づき、
- 関係機関との連携を図りながらこどもの自殺防止に努めること、
- 生徒の心の健康保持を目的とした教育・保健指導を充実させること、
が努力義務として明文化されました。
4. 教育・啓発分野の拡充(第17条関係)
学校は、
- 精神保健に関する知識向上、
- 健康診断・保健指導による心の健康維持、
などを含む自殺予防教育・啓発活動を行うよう努めるとされています。
5. 医療提供体制の整備(第18条関係)
- 精神科医・看護師など医療従事者への自殺防止研修の機会確保を明記。
- 医療現場での早期発見・早期介入体制の強化が図られます。
6. 自殺発生回避と情報連携の仕組み(第19条関係)
- 自殺リスクの高い児童生徒を早期発見し、関係機関に迅速かつ適切に情報提供することを規定。
- 自殺助長につながる情報・物品・設備の管理や利用に関しても、国・自治体が注意喚起措置を講ずることを明文化しました。
7. 支援の継続性を法文化
- 自殺未遂者への支援(第20条):短期的介入にとどまらず、長期的・継続的支援を行う。
- 自殺者遺族支援(第21条):生活上の不安を和らげ、心理的・社会的支援を包括的に実施することを明記。
8. 地域協議会の設置(第23〜第25条関係)
地方自治体は、こどもの自殺防止施策を実施する際、以下の機関と協議会を設けることができます。
- 学校・教育委員会
- 児童相談所
- 精神保健福祉センター
- 医療機関
- 警察署
- 民間支援団体
協議会は、情報共有・支援方針の協議・関係機関への情報提供依頼を行い、必要に応じて国や都道府県が助言・資料提供を行います。
また、協議会参加者には守秘義務を課し、違反には罰則が設けられました。
9. 検討条項(附則第2条関係)
自殺対策の実施状況や社会状況の変化を踏まえ、定期的に見直しを行うことが明記されています。
実務への影響
(1)学校・教育委員会
- スクールカウンセラーやSNS相談員など外部専門職との連携体制を整備。
- 心の健康診断・保健指導を年次計画に組み込む必要。
- 児童生徒の個人情報の取り扱い・情報共有ルールの見直しが必要。
(2)自治体・こども家庭センター
- 新設協議会の設置・運営責任を負う。
- 自殺未遂者・遺族支援に関する福祉予算の確保が求められる。
(3)医療機関・民間団体
- 地域協議会への参加義務と連携体制構築が想定される。
- 精神科医療・相談体制の研修充実が必要。
まとめ
2025年改正の「自殺対策基本法」は、
- こどもの自殺防止を法的に明文化
- 地域横断型「支援協議会」制度を新設
- ICT活用・情報連携による早期対応体制を整備
という3本柱で、教育・医療・福祉の一体的な支援を推進します。
こども家庭庁・文科省・厚労省・自治体は、年内に協議会設置ガイドラインと学校現場対応マニュアルを策定する見通しです。