2024年6月19日に公布された**「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律」(令和6年法律第58号)が、2026年末までに施行される予定です。
この新法は、スマートフォンの基本ソフト(OS)やアプリストア、ブラウザ、検索エンジンを提供する巨大プラットフォーマーの競争制限的行為を是正することを目的とした初の包括的規制法**です。
運用・監督は公正取引委員会が担い、Apple・GoogleなどのグローバルIT企業が直接の対象となります。
制定の背景
スマートフォンのOSやアプリストアを提供する事業者が、自社アプリや課金システムを優遇する独占的取引慣行を続けてきたことが、競争の阻害要因として世界的に問題視されてきました。
欧州では2024年に「デジタル市場法(DMA)」が施行され、日本でも同様の公平競争ルール整備が急務となっていました。
本法は、独占禁止法を補完する「特定ソフトウェア市場に特化した行為規制法」として位置づけられています。
法律の概要
1. 目的(第1条)
スマートフォンの利用に不可欠な特定ソフトウェアの提供事業者に対して、
- 自社製品・サービスを不当に優遇する行為
- 他事業者の活動を不当に制限する行為
を禁止し、公正で自由な競争の促進を図ることを目的としています。
2. 定義(第2条)
法律上、「特定ソフトウェア」は以下の4類型を指します。
- 基本動作ソフトウェア(モバイルOS):例:iOS、Android
- アプリストア:例:App Store、Google Play
- ブラウザ:例:Safari、Chrome
- 検索エンジン:例:Google検索、Yahoo!検索
また、「個別ソフトウェア」はメール・地図・SNSなど個別用途のアプリを指し、これを提供する者を「個別アプリ事業者」と定義しています。
3. 指定事業者制度(第3条)
公正取引委員会は、特定ソフトウェアの種類ごとに、一定規模以上の事業者を「指定事業者」として指定します。
指定を受けた事業者は、以下の行為制限・義務の対象となります。
4. 指定事業者の禁止行為(第5条〜第9条)
| 禁止行為 | 内容 |
|---|---|
| ① データの不当利用(第5条) | 他社のアプリ・取引を通じて得たデータを自社サービスに転用する行為の禁止。 |
| ② 不公正な取扱い(第6条) | OSやアプリストアの利用条件を恣意的に操作する行為を禁止。 |
| ③ 他社ストアの排除(第7条) | 他事業者によるアプリストア提供を妨害してはならない。 |
| ④ 支払手段の制限(第8条) | 個別アプリ事業者が自社課金システムを導入するのを妨げる行為を禁止。 |
| ⑤ 検索順位の優遇(第9条) | 自社サービスを検索結果で優先表示することを禁止。 |
いずれも「サイバーセキュリティ確保に真に必要な場合」を除き、正当理由がなければ違反となります。
5. 指定事業者に課される義務(第10条〜第13条)
指定事業者は、取引の透明性確保や利用者の選択肢確保のため、次の措置を講じる義務があります。
- データ利用条件の開示(第10条)
- ユーザーデータの移転容易化(第11条)(ポータビリティ確保)
- 標準設定の変更容易化(第12条)
- 仕様変更や利用制限の際の通知・説明義務(第13条)
これにより、アプリ事業者やユーザーは「OSやストアに縛られない選択」が可能となります。
6. 公正取引委員会への報告義務(第14条)
指定事業者は毎年度、取引透明性やデータ取扱いに関する報告書を公取委に提出し、その内容が公表されます。
7. 違反時の措置(第15条〜第30条)
- 公取委による立入検査・報告徴収
- 排除措置命令・課徴金納付命令
- 勧告・命令
- 事業者自らの確約手続制度(是正計画を提出し認定を受けた場合は命令免除)
これにより、独禁法と同様の強力な是正権限が付与されます。
8. 差止請求・損害賠償(第31条〜第40条)
- 指定事業者の違反行為に対し、個別アプリ事業者などが差止請求可能。
- 指定事業者には無過失損害賠償責任が課される。
- 緊急停止命令制度により、裁判所が迅速に取引停止を命じることも可能。
実務への影響
(1)プラットフォーマー(OS・ストア運営事業者)
- Apple、Googleなどは日本国内向け事業で新たな競争ルール遵守義務が発生。
- 決済システム・アプリ配信・検索アルゴリズムの開示義務が拡大。
- 利用者データの移転要請や、第三者アプリストア開放への対応が不可避。
(2)アプリ開発・配信事業者
- 自社課金・外部ストア配信が法的に保護され、ビジネス機会が拡大。
- 一方で、セキュリティや利用者情報管理の責任も重くなる。
(3)消費者・ユーザー
- OS・ブラウザ・検索エンジン・アプリストアを自由に選択可能に。
- データ移行の自由度が高まり、「囲い込み」からの解放が期待されます。
施行時期とスケジュール
- 公布日:2024年6月19日
- 施行日:公布後1年6か月以内(政令で定める日、2025年末〜2026年初頃を想定)
- 所管官庁:公正取引委員会
政令・省令整備後、公取委による「指定事業者」の公表・報告制度運用が開始される予定です。
まとめ
「スマートフォン特定ソフトウェア競争促進法」は、デジタル市場におけるプラットフォーム独占の是正と公正競争の確立を目的とする新法です。
スマートフォン産業を支えるソフトウェア提供者に対して、独禁法を超える明確な行為規制とデータ開示義務を課し、ユーザーとアプリ開発者双方の自由な選択と公平な競争を促す仕組みが導入されます。
引用元
WestlawJapan「法令あらまし:スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律(令和6年法律第58号)」