公正取引委員会は、2025年10月1日付で**「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律第四条の明示に関する規則」(令和7年公正取引委員会規則第8号)を公布しました。
本規則は2026年1月1日施行**予定で、いわゆる「下請代金支払遅延等防止法(下請法)」と「下請中小企業振興法」の改正(令和7年法律第41号)に基づく新しい運用ルールです。
製造業・IT開発・物流業などの取引で、電子契約・電子記録債権・ファクタリングによる支払が制度的に位置づけられる大きな転換となります。
改正の背景
中小受託事業者(下請・外注先)に対し、元請企業が支払を遅延したり、書面記載を曖昧にしたりする事例が後を絶ちませんでした。
また、デジタル取引が急速に普及する中で、紙の発注書によらない電子的な明示・契約のルールが不明確であったため、トラブル防止の観点から制度の明文化が求められていました。
今回の新法・新規則により、
- 契約内容の「明示義務」
- 支払・債権譲渡方法の透明化
- 電子データでの交付・保存ルールの統一
が法的に整備されます。
規則の概要
第1条 明示義務の対象項目
元請事業者(委託事業者)は、委託契約を締結する際、以下の事項を書面または電磁的記録で明示しなければなりません。
- 取引当事者の商号・番号等(識別可能な符号を含む)
- 製造・役務提供の内容、納期・場所
- 検査を行う場合の検査完了期日
- 代金の額および支払期日
- 債権譲渡担保・ファクタリング・併存的債務引受方式を用いる場合の条件
- 金融機関名
- 金額・期間の始期
- 金銭支払期日
- 電子記録債権を利用する場合の条件(発生記録・支払期日など)
- 原材料等を委託元から購入させる場合の条件(品名・数量・対価・決済方法)
- 未定事項がある場合は、その理由と決定予定日を明示
※具体的な金額を明示できない場合は、算定方法の明示でも可。
※複数取引に共通する内容は、期間を定めて包括的明示することが認められます。
第2条 電磁的方法の定義
電磁的方法(電子的な通知手段)は次の通り。
- 電子メールや取引専用システム等による通信送信
- 電子媒体(USB、CD、クラウド記録媒体など)の交付
ただし、表示内容が受注側の端末で明確に確認できる必要があります。
第3条 書面の内容
下請法第4条第2項の「書面」には、第1条で列挙された全事項を記載する必要があります。
つまり、紙または電子契約いずれであっても、同一の記載義務項目を満たすことが求められます。
第4条 電磁的通知を認める場合
電磁的方法による契約明示が認められるのは、以下の場合に限られます。
- 下請事業者が書面または電子申出により同意した場合
(受注側が端末で閲覧できない環境にある場合は除外) - 既に紙の契約書が交付済みの場合
- 他法(特定受託事業者取引適正化法)に基づく電子取引で、適正な表示条件を満たす場合
これにより、発注側が一方的に電子契約へ切り替えることはできず、下請側の同意が必須となります。
施行時期と適用範囲
- 施行日:2026年1月1日
- 対象取引:製造委託、修理、ソフトウェア開発、特定運送、役務提供など
- 対象者:中小受託事業者(資本金3億円以下または従業員300人以下)
2026年以降の新規契約・更新契約は、原則として本規則の電子的明示要件を満たす必要があります。
実務への影響
(1)元請・委託企業側
- 契約書テンプレート・電子システムの改修が必要。
- ファクタリング・電子債権利用時の明示項目追加が義務化。
- 下請側の同意取得フローを整備しなければ、電子契約が無効化される可能性。
(2)中小受託事業者側
- 書面交付・電子交付のいずれでも、契約条件を保存・確認できる体制整備が求められる。
- 代金支払方法(電子債権・債権譲渡等)の選択肢が拡大し、資金繰り改善のチャンス。
(3)法務・経理部門
- 電子取引データ保存法やインボイス制度との整合性を確保。
- 公取委・中企庁による調査に備えた記録保存・説明責任体制の構築が不可欠。
まとめ
2026年1月施行の「明示規則」は、下請取引の透明化とデジタル取引の信頼性を高める新制度です。
今後は「発注・受注・支払」の全過程で、電子的な明示・記録管理を行うことが標準になります。
大企業・中小企業ともに、契約手続の電子化・記録保存方針を年内に見直しておく必要があります。
引用元
公正取引委員会「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律第四条の明示に関する規則」(令和7年公正取引委員会規則第8号、2026年1月1日施行)