警察庁は2025年9月1日付で「被害実態を踏まえた自動車盗難の未然防止対策の推進について」(丁生企発第553号)を全国に通達しました。自動車盗の認知件数は平成15年の6万件超から大幅に減少したものの、令和4年以降は再び増加傾向にあり、特定の高額車種が組織的に窃取・海外流出される事案が相次いでいます。今回の通達では、販売店・事業者・利用者それぞれに求められる「自主的な防犯行動」を強調し、各都道府県警察に具体的な取組方針を示しました。特に、トラックや建設車両を保有する企業、販売・リース・整備業者は、業務フローの再点検が求められます。
改正の背景
自動車盗難はかつてのピーク時から9割減少しましたが、近年は電子キーや通信機能を悪用した「リレーアタック」や「CANインベーダー」など、高度化した犯行手口が拡大しています。令和4年以降は3年連続で増加しており、警察庁はこれを「組織的・計画的な高額車種狙い」と位置づけました。こうした状況を受け、従来の2021年通達(旧通達)は廃止され、新たにメーカー・販売店・使用者を巻き込んだ防犯強化体制を構築する方針が打ち出されました。
改正の主なポイント
1. 対策の重点
警察庁ウェブサイトで公表される「車名別盗難台数の状況」に掲載される車種を中心に、盗難未然防止対策を重点化。高額SUV・ハイブリッド車・商用トラックなどが主な対象です。
2. 警察・メーカー・事業者の三位一体体制
警察庁は、自動車製造事業者や関係団体との協議を継続し、防盗性能を高めた車両の開発を働きかける方針を明記。都道府県警察には、地域実情に応じて販売店・整備業・業界団体と連携した広報・啓発活動を強化するよう指示しています。
3. 販売店を通じた利用者への防犯啓発
販売店は「販売時」だけでなく、車検・点検・リコール案内・顧客対応のあらゆる場面で、防犯対策を呼びかける役割を担います。利用者に推奨する具体策は次のとおりです。
- 警報装置やハンドルロック・ホイールロック等の固定器具、GPS追跡装置の活用
- 車種を特定されにくくするためのボディカバー利用
- 駐車場の防犯カメラ・センサーライト・車止めポールの設置
- 自宅外では管理が行き届いた駐車場の選定
これらの複合的対策が「実効性のある防犯」として推奨されています。
4. 販売店以外の業界団体への連携要請
貨物自動車の盗難が多い地域では、トラック協会・建設業協会などへの働きかけを通じ、事業用車両を保有する企業の自主的対策を促進します。広報資料や盗難発生情報の提供を通じ、業界単位での意識向上を目指します。
5. 直接的な利用者啓発
警ら活動・巡回連絡・交通指導の際に、盗難が多い車種を発見した場合には、警察官が直接利用者に防犯策を説明する「直接啓発」を実施。警察の現場力を生かした地域密着型の広報活動が強化されます。
実務への影響・企業の対応策
今回の通達は、メーカーや販売店のみならず、車両を業務利用するあらゆる企業に影響します。事業者は以下の三層対策を早期に整備する必要があります。
第一層:物理的防犯強化
駐車場の照明・監視カメラ・フェンス・車止めポールの設置を見直し、ハンドルロック・ホイールロック・警報装置・GPS装置を標準装備化します。夜間や長期保管車両には車体カバーを活用します。
第二層:情報防御と管理体制
キー情報・車両管理システムのアクセス制限を再確認し、合鍵作成や整備委託先の管理ルールを明確化します。車両データ通信を扱う業務では、CAN通信の遮断・暗号化の検討も求められます。
第三層:従業員教育と地域連携
点検や納車時に顧客へ防犯説明を行うマニュアルを作成し、社員教育を定期化します。地域の警察署・防犯協会との連携を強め、最新の盗難手口や重点車種情報を共有します。
特に、トラック・建設車両・重機を保有する事業者は、資材置場・工事現場での夜間管理を徹底し、エンジンキー・リモコンキーの保管ルールを明文化しておく必要があります。
施行時期と今後のスケジュール
本通達は令和7年(2025年)9月1日付で施行され、旧通達(令和3年3月17日付)は廃止となりました。有効期間は令和13年(2031年)3月31日までとされています。企業は2025年度中に防犯体制を再整備し、2026年度初頭までに全社教育と委託先への展開を完了させることが推奨されます。
まとめ
自動車盗難は減少傾向から再び増加に転じ、手口も高度化しています。今回の通達は、メーカー・販売店・利用者・事業者が連携して「未然防止」に重点を置く新しい防犯モデルを示しました。企業は自社の保有車両や取引先の実態を踏まえ、ハード・ソフト両面の対策を今期中に整備することが求められます。防犯は「技術」よりも「運用」の積み重ねで守る時代です。
引用元:警察庁通達「被害実態を踏まえた自動車盗難の未然防止対策の推進について」(令和7年9月1日・警察庁丁生企発第553号)