2025年10月24日付で警察庁生活安全局から全国の都道府県警察本部に発出された通達「熊の出没による人身被害防止のための対応について」は、近年急増する熊被害への全国統一的な対応を求める内容です。令和7年度(2025年度)における熊による死亡者数はすでに過去最多を更新しており、警察も「人命保護のための初動対応主体」としての役割を強化する姿勢を明確にしました。
本通達は、地方自治体が中心となる鳥獣保護管理業務に加え、警察が市民避難・警戒・緊急銃猟支援・現場安全確保までを体系的に担う枠組みを具体化したものです。
通達の背景
熊の市街地出没や人身被害が東北・北陸・中部地方を中心に急増しており、2025年10月時点で死者が前年を上回る異常事態となっています。これまで熊の駆除・捕獲は「鳥獣保護管理法」に基づく自治体事務とされてきましたが、出没現場の初動で警察が安全確保を求められるケースが増加。さらに、緊急銃猟やハンターの安全確保をめぐる判断が現場ごとに異なっていたため、警察庁が初めて包括的な対応指針を全国に示しました。
通達の主な内容
第1 基本的な考え方
熊の出没対応は自治体の事務であるものの、地域住民の生命・身体を守る責務を持つ警察は、関係機関(自治体・消防・猟友会等)と連携し、安全確保・避難誘導・警戒活動を実施することが重要と明示。
特に、鳥獣保護管理法第34条の2に基づく「緊急銃猟」が実施される際は、警察も現場安全確保などに協力するよう求めています。
第2 平素の備え(平時対応)
- 担当部署の明確化:警察本部・警察署ごとに熊被害対応の責任所属を事前指定。
- 連絡体制の構築:夜間・休日も含め、自治体・消防・猟友会との緊急連絡ルートを確立。
- 合同訓練の実施:緊急銃猟を想定した実動訓練を関係機関と合同で実施。
- 警察官教育:警職法、鳥獣保護管理法、熊の生態・装備使用法を含む実務教養を行う。
- 装備整備:各県警が必要な防護具・通信機器等を整備するよう努める。
第3 熊被害事案発生時の対応
- 通報受理時:通報者の安全確保を最優先し、詳細情報(場所・頭数・被害有無)を聴取。
- 関係機関への通報連携:熊被害と判断した場合、速やかに市町村・消防・教育機関へ情報共有。
- 広報・注意喚起:防災無線・防犯メール・SNS等を活用して住民へ警戒情報を発信。
- 現場対応
- 避難誘導・立入規制:赤色灯・マイクを使用して地域住民に避難を促す。
- 学校対応:通学路・学校周辺で警戒を強化し、登下校時の安全確保を教育機関と連携。
- 救助活動:負傷者・行方不明者発生時は消防・ハンターと連携し、二次被害防止の上で捜索。
- 警察官の安全確保:ヘルメット着用などで頭部損傷を防止し、現場職員にも安全装備を徹底。
第4 熊の排除・駆除対応
- 緊急銃猟(市町村実施)への支援
熊の出没対応は原則として市町村が判断するが、警察は「安全確保」「交通規制」「助言」を担当。
緊急銃猟を実施する際は「改正鳥獣保護管理法施行通達」(令和7年8月22日付)に基づき、関係機関と連携して行動する。 - 警職法第4条第1項に基づく駆除(警察主導)
住宅街で熊が暴れ、**「現実的・具体的に人命に危険が生じ、特に急を要する場合」**は、警察官がハンターに対し猟銃による駆除を命じることが可能。
この運用は、緊急銃猟手続きと並行しても妨げられないと明示され、現場判断で即時発砲を認める法的位置づけが明確化されました。
そのため、当直時間帯を含め、判断権限を持つ警察官を事前に指定し、訓練を受けさせるよう求めています。
実務への影響と対応策
今回の通達は、熊対応における「警察の責任範囲」を明文化した点で画期的です。実務上は以下の準備が求められます。
- 警察本部・署での担当部署明確化と連絡網整備
- 緊急銃猟・警職法駆除双方に対応できる訓練体系の構築
- 装備(防護具・防弾ベスト・通信機材)の標準化
- 学校・自治体との定期的な情報共有・訓練
- 現場判断権限を持つ警察官の指名と教育
特に、緊急銃猟時の警察協力範囲が明確化されたため、現場警察官の判断負担が軽減される一方で、対応の迅速性・法令適合性がより厳しく問われることになります。
まとめ
熊被害の急増に対し、警察庁は「熊対策を治安維持の一環」と位置づけ、現場行動基準を全国統一化しました。
警察だけでなく、自治体・教育機関・地域住民・猟友会が一体となった連携が今後の鍵となります。今後、各県警では本通達に基づく**「熊出没対応マニュアル」改訂や「緊急銃猟訓練」**の実施が加速するとみられます。
引用元情報(本文中リンクなし)
警察庁生活安全局生活安全企画課 通達(警察庁丁生企発第657号/丁保発第203号)
発出日:令和7年10月24日
件名:「熊の出没による人身被害防止のための対応について」