2025年6月下旬に施行される「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律の一部改正法」(令和7年法律第45号)は、接待飲食業(キャバクラ・ホストクラブ・ラウンジ等)を中心に、営業の在り方を大きく変える改正です。改正の柱は「色恋営業(恋愛感情を利用した営業)」の禁止と、いわゆる「スカウトバック(紹介報酬)」の明確な禁止、そして無許可営業への罰則強化です。
警察庁が主導する本改正は、トラブルや犯罪につながる悪質営業の抑止を狙いとし、店舗経営者・事業者には新たな法令遵守体制の構築が求められます。
改正の背景
ホストクラブやガールズバーなどの一部店舗において、従業員が客の恋愛感情を意図的に利用して高額消費を誘発する、いわゆる「色恋営業」や「売掛トラブル」が社会問題化していました。これに伴い、警察庁は令和6年末に全国調査を実施し、若年層女性の被害が多数確認されたことを受けて法改正を決定。
また、性的サービス業界で「スカウトバック」と呼ばれる紹介報酬の授受が、犯罪組織や人身取引への資金源になっているとの指摘もあり、業界全体の健全化が急務となりました。
改正の主なポイント
① 接待飲食業における「色恋営業」の禁止(第18条の3関係)
接待飲食営業を営む事業者は、営業に関して以下の行為を行ってはならないと明記されました。
- 客に対して料金やサービス内容を虚偽説明する行為
- 客が従業員に恋愛感情を抱いていることを知りながら、これに乗じて困惑させ、飲食や金銭支出を促す行為
- 注文前に飲食物を提供して心理的圧力を与える行為
これらはいずれも、客の自由な意思決定を妨げる行為として禁止され、違反者には行政処分や刑事罰が科されます。特に「恋愛感情の利用」は初めて法的に明示された規制対象であり、従来の「風俗営業における接待行為の定義」を大きく拡張する改正です。
② 客への威迫・不当勧誘の禁止(第22条の2・第53条関係)
客に対して威迫・困惑を与えて支払いや契約を強要する行為、または客に違法行為(売春・融資・金銭調達等)を要求する行為を禁止。違反した場合は罰金・営業停止命令の対象となります。営業現場のマニュアルや接客トークが法令違反となる可能性があるため、店舗は従業員教育と内部通報体制の整備が必須です。
③ スカウトバックの禁止(第28条・第31条の3関係)
性風俗関連特殊営業(デリヘル、ソープ、店舗型性風俗等)の事業者は、従業員の紹介者やスカウト業者への「報酬・紹介料の支払い」を禁止されました。
これまで業界慣行として行われていた「スカウト料」「バック」「紹介ボーナス」などが法的に禁止され、違反には罰則が適用されます。店舗運営会社やスカウト仲介者のみならず、第三者による間接支払いも処罰対象となります。
④ 無許可営業・法人責任に対する罰則強化(第49条・第57条関係)
無許可での風俗営業を行った場合や、許可条件違反を行った場合の罰金上限が引き上げられ、法人も連帯して処罰されます。従来の「個人責任」中心から「法人処罰」への転換が図られ、経営層のコンプライアンス責任が強調されました。
⑤ 許可拒否事由の追加(第4条関係)
公安委員会が営業許可を出せない対象として、次の3類型が追加されました。
- 親会社等が許可取消を受けてから5年以内の法人
- 許可取消の聴聞期間中に自主返納した者(5年以内)
- 暴力的不法行為を常習的に行うおそれのある者が支配的影響力を持つ企業
これにより、名義貸しや経営実態の隠蔽を防止する狙いがあります。特に「グループ経営型ホストクラブ」「多店舗展開型キャバクラ」における系列企業管理の透明化が課題となります。
実務への影響・企業の対応策
接待飲食業・性風俗関連業を運営する事業者は、法令遵守体制の再構築が急務です。
- 社内教育・マニュアル整備:恋愛感情を利用する営業トーク、心理的圧力となる接客手法を全廃。営業マニュアルを法改正対応版に更新する。
- 契約・報酬制度の見直し:紹介料・スカウトバックを完全廃止し、従業員採用経路を透明化。外部スカウト業者との契約は原則禁止。
- 許可・届出管理の厳格化:法人グループ単位での風営許可状況を把握し、返納・取消履歴を管理する体制を整える。
- 顧客トラブル防止:料金説明やサービス提供前の確認プロセスを文書化し、電子サイン等で証跡を残す。
経営層にとっては、罰金上限引き上げや法人処罰のリスクが高まるため、風営法コンプライアンスをCSR・ガバナンスの観点で再定義する必要があります。
施行時期とスケジュール
公布日は2025年5月28日。施行日は「公布の日から1か月を経過した日」、すなわち2025年6月28日頃が予定されています。
施行までに、各都道府県公安委員会から新しい運用指針・届出様式が公表される見通しであり、企業は6月中旬までに社内マニュアル改訂・従業員研修を完了させることが推奨されます。
まとめ
今回の風営法改正は、「恋愛感情の悪用」「スカウト行為の金銭化」といった業界構造的問題に初めて法規制を導入した点で画期的です。
接待飲食業・性風俗業は、従業員の安全と顧客保護の両立を重視した経営モデルへの転換が求められます。
今後、警察庁はガイドラインを通じて運用を具体化する見込みであり、業界団体・事業者は法改正の趣旨を踏まえた迅速な対応が不可欠です。
引用元情報(本文中リンクなし)
官報:令和7年5月28日号外第117号
法令番号:令和7年法律第45号