2026年4月1日施行の「老朽化マンション等の管理及び再生の円滑化等を図るための建物の区分所有等に関する法律等の一部改正法」は、マンション再生を取り巻く法体系を大きく再構築するものです。これまで建替えや再生が合意形成の困難さで進まなかった老朽マンションに対し、決議要件の緩和、再生・除却・売却の新制度、そして自治体の助言・勧告権限が拡充されます。企業としては、不動産・建設・管理事業者だけでなく、金融機関や再開発デベロッパーも含め、再生事業への関与機会と法的留意点を整理する必要があります。
改正の背景
全国で築40年以上の分譲マンションが増加し、2030年代には全体の約4割が50年超となる見通しです。耐震性や設備劣化への不安が高まる一方、区分所有者の高齢化や所在不明化により、修繕や建替えが合意できないケースが多発していました。こうした実態を踏まえ、国は「管理・再生・除却の三本柱」で制度を整理し、民間と行政が協働して老朽マンション問題に取り組める法的基盤を整備しました。
改正の主なポイント
区分所有法の改正:合意形成を容易に
従来、建替え決議には「区分所有者および議決権の5分の4以上」の賛成が必要でしたが、今回の改正で、①耐震性・外壁・配管・バリアフリー基準に著しく適合しない建物は「4分の3」に緩和されました。また、外壁剥落など危険性が高い場合には要件がさらに緩和され、居住者の安全確保を優先します。
団地型マンションや一括建替え決議についても、「反対者が3分の1超いなければ有効」とする柔軟な規定が新設され、団地全体での再生を現実的に進めやすくなります。
さらに、所在不明区分所有者への対応として「裁判所による所有者不明専有部分管理命令」「管理不全命令」の制度が創設。利害関係人や自治体の申立てにより、放置された専有部分や共用部分を裁判所の管理下で改善できるようになります。
被災マンション特例法の改正:災害時の再建も迅速化
大規模地震や火災などで被災したマンションは、従来よりも緩和された「3分の2」の同意で再建・敷地売却が可能となります。団地型や大規模一部滅失の場合にも同様の特例が適用され、被災地の住宅再建を迅速化します。
「マンション再生等の円滑化法」に改題:再生・除却制度を整備
旧「マンション建替え円滑化法」は、「マンション再生等の円滑化法」に改称されました。新法では、建替えだけでなく「再生」「売却」「除却」「敷地分割」までを網羅します。
都道府県知事は、保安上危険なマンションに対して建替えや除却を「勧告」・「公表」できる権限を持ち、さらに再生組合・売却組合・除却組合といった法人制度が整備されます。
これにより、5人以上の合意で都道府県の認可を受けた組合が設立可能となり、賛成多数で「時価による買い取り請求」や「賃貸借終了」を求められるようになります。分譲事業者や再開発デベロッパーにとっては、民間主導で老朽マンションを再生・解体する新たな法的手段となります。
除却制度の新設と金融支援
「マンション除却事業」の制度が創設され、居住環境の改善のために必要と認められた場合、除却組合を設立して建物を除却・敷地再利用できるようになります。独立行政法人住宅金融支援機構が、除却・再建資金の融資対象を拡大する点も注目です。さらに、特定行政庁が「除却等が必要」と認定した場合には、建築基準法の高さ制限を超えた再建も可能になります。
「マンション管理適正化法」の改正:自治体・支援法人の役割強化
マンションの管理不全を防ぐため、都道府県知事は修繕不実施や管理不適正を把握した場合に「勧告」や「公表」が可能となります。また、一般社団法人等を登録する「マンション管理適正化支援法人」制度が創設され、管理組合や再生事業者に対して情報提供・相談・協力を行います。
都道府県はこれら支援法人と連携し、管理不全マンションに対して裁判所への申立てを行うこともできるようになります。
分譲事業者への新義務:管理計画の認定制度
分譲時点での「管理計画認定制度」が導入されます。分譲事業者は、引渡し後の管理体制や修繕計画を含む「管理計画」を作成し、都道府県知事の認定を受けることができます。認定マンションは広告等で表示が可能となり、長期的な品質・維持管理を重視する分譲マーケットに新たな信頼指標が加わります。
実務への影響・企業の対応策
デベロッパーや不動産会社は、建替え・除却・再生・売却の各スキームの法的枠組みを比較整理し、対象マンションの老朽度や所有者構成に応じた最適手法を提案できる体制を整える必要があります。再生組合・除却組合などの法人スキームを活用する場合、早期の権利調整・登記・補償手続きの設計が重要です。
マンション管理会社は、所有者不明・管理不全マンションに関して、自治体からの報告要請や立入検査への対応体制を整備し、支援法人との連携を視野に入れた運用ルールを見直すべきです。
金融機関・投資家は、再生・除却事業への資金支援が制度的に裏付けられたことで、老朽マンション再生市場への参入検討が進むと予想されます。
施行時期と今後のスケジュール
本法は2026年4月1日施行(一部規定を除く)です。今後、国土交通省と法務省による政令・省令・告示・技術的助言が順次公表され、再生組合や管理支援法人の認定手続、管理計画認定基準などの詳細が明らかになります。2025年度内には、自治体・業界団体による説明会・ガイドライン策定が想定されます。
まとめ
本改正は、老朽化・人口減少・高齢化という社会課題に対し、「建替え・再生・除却・管理」のすべてを包括的に整備する画期的な改革です。民間事業者は、行政や管理組合と協働しながら、適切な制度活用によって安全・快適な住宅ストックの更新を推進することが求められます。再生・除却を一体で考える時代が本格的に始まります。