2026年10月1日から、労働安全衛生規則第577条の2に基づく「厚生労働大臣が定める物」および「濃度の基準」に78物質が新たに追加され、短時間(STEL)・8時間(TWA)の濃度基準値が示されました。同時に、測定方法等を定める技術上の指針(公示第28号)も改正され、現場でのサンプリング手順や分析方法が拡充されています。塗料・接着剤・洗浄剤・樹脂・農薬・滅菌・フレーバー等の化学物質を扱う企業、建設現場や設備保全、研究・検査機関、倉庫燻蒸や医療ガスを扱う事業者まで、広く対応が必要です。
改正の背景
本改正は、ばく露管理の対象物質を拡大し、最新の知見に沿った実効的な測定・管理を促すものです。技術上の指針では、濃度基準値を設定できない明確な発がん物質についても測定方法を定め、ばく露を最小化することを明文化。法令(濃度の基準)と実務(測定方法)をパッケージで更新し、事業場での評価・管理の確実化を図っています。
改正の主なポイント
1)対象物質の大幅拡充(78物質)
アクリル酸2-エチルヘキシル、2-ヒドロキシプロピル、1-エトキシ-2-プロパノール、3-エトキシプロパン酸エチル、1,2-エポキシ-3-イソプロポキシプロパン、クロロプレン、過酢酸(STEL)、塩化シアン(STEL)、ジアセチル(0.01ppm)、N-メチル-2-ピロリドン(1ppm)、メチルナフタレン、MDI(0.05mg/m3)など、多様な用途を持つ物質が含まれます。基準値の具体例として、酢酸ブチル(s-BuAc・t-BuAc)はTWA 20ppm、STEL 150ppm、ビスフェノールAは2mg/m3、m-ジクロロベンゼンは2ppmが示されています。
2)「酢酸ブチル」にs-BuAcを追加
既に基準値があるt-BuAc(酢酸ターシャリーブチル)に、s-BuAc(酢酸セカンダリーブチル)が追加され、両者を包含する整理に。備考でもs-BuAc追加が明記されています。
3)「発がん性が明確で閾値設定できない物質」は測定方法を整備
2-ニトロプロパンとブロモエチレンは「濃度基準値を設定できない」区分に位置づけられ、ばく露最小化を前提に測定法が定められました。内部ルールや作業手順は、ばく露ゼロ化を目指す管理に寄せる必要があります。
4)異性体が混在する場合の取り扱い
トルイジン(p-/m-)、フッ素の水溶性無機化合物、モリブデン化合物、酢酸ブチル(s- / t-)など、異性体・成分ごとに基準値が定められている物質は、混在時に「それぞれの異性体ごとの基準値を適用」します。
5)測定方法(サンプリング・分析)の明確化
技術上の指針の別表で、固体捕集・ろ過捕集・液体捕集の使い分け、ガスクロマトグラフやHPLCなど分析機器の指定、蒸気・粒子を併せて捕集すべき物質の取り扱い等が追補されました。測定手順が新設・追加された個所が多数あります。
実務への影響・企業の対応策
結論から言えば、2026年10月の適用開始までに「化学物質リスクアセスメントの更新」「作業環境測定計画の見直し」「工程・設備・保護具・教育の是正」を一体で進める必要があります。
まず、化学物質台帳(SDS・使用量・混合割合・温度・揮散条件)を棚卸しし、今回の78物質と「閾値なし」物質の該当・可能性を洗い出します。異性体混在品(例:トルイジン、酢酸ブチル)や成分として含有しうる可塑剤・溶剤・添加剤(BPA、フタル酸エステル、ジアセチル、NMPなど)も、配合実態とばく露形態(蒸気/ミスト/粉じん)を再評価してください。
次に、作業環境測定計画を、改正指針のサンプリング方式に沿ってアップデートします。蒸気・粒子の両捕集が必要な物質は、ろ過捕集+固体捕集の併用を前提に測定系を設計します。分析機器(GC、HPLC等)の指定があるものは外部機関との委託条件やLOQ(定量下限)を確認し、採取媒体や流量・採気時間の手順書を改版しましょう。
工程面では、発散源囲い込み、局所排気・全体換気の風量増強、密閉化や置換溶剤の検討を優先順位高く。特に過酢酸や塩化シアンのSTEL管理、ジアセチル等の超低値管理、NMP・MDIの皮膚感作・吸入対策は、作業手順の時間管理(短時間高濃度の抑制)と密接に設計します。
個人用保護具(PPE)は、吸収缶の種類(酸性ガス、有機ガス、混合用)やろ過材区分を更新し、面体のフィットテスト・交換周期を見直します。皮膚吸収の懸念がある物質については、透過試験データに基づく手袋材質の指定・交換ルールを作成し、作業票に落とし込むと現場運用がスムーズです。
サプライチェーン対応も重要です。塗料・インキ・接着剤・樹脂・農薬(原体・製剤)・燻蒸(弗化スルフリル)・医療ガス(ハロタン)など、取引先や協力会社の作業場所で基準適合が求められます。委託先の測定・局排・教育の実施状況を契約条項(安全衛生協定)に反映しましょう。
教育・訓練は、改正点と新規採用物質の危険有害性(GHS区分、ばく露症状、応急措置)を追加し、短時間基準の意味(作業ピーク時の管理)や混在時の異性体ごとの判定ルールも盛り込みます。
施行時期と今後のスケジュール
告示・指針の公表日は2025年10月8日、適用開始は2026年10月1日です。逆算で、2026年上半期までに台帳整備と測定系の準備、夏頃までに試測定・設備改造・PPE配備、9月中に教育・手順書改訂・表示ラベル更新を完了させる計画が現実的です。
まとめ
今回の改正は、対象物質の拡大と測定方法の明確化により、化学物質管理の「抜け」を塞ぐ実務的なアップデートです。ポイントは、①該当物質の棚卸しと混在・異性体の扱い整理、②指針に沿った測定系・委託条件の再設計、③短時間基準を意識した工程・換気・時間管理、④PPEと教育の刷新、⑤協力会社まで含めたチェーン全体の適合。2026年10月の適用開始までに、計画的に改訂・実装を進めましょう。
(引用元:厚生労働省 労働基準局長通達「労働安全衛生規則第五百七十七条の二第二項…濃度の基準の一部を改正する件」の告示等について(基発1008第1号・2025年10月8日)。別添「物の種類及び濃度基準値一覧」「技術上の指針 新旧対照表」より)