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厚生労働省が糖尿病と食事との関連性資料を公表(2025年度版)

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厚生労働省は、2025年度版の糖尿病と食事の関連性に関する最新の資料を公表しました。この資料は、日本人の食生活や体質を考慮しつつ、最新の科学的知見に基づいて作成されています。本記事では、この資料の主要なポイントを解説し、糖尿病の予防と管理における食事の重要性について詳しく見ていきます。

目次

糖尿病の基本的な理解

糖尿病は、インスリンの作用不足による慢性の高血糖状態を主な特徴とする代謝症候群です。インスリン作用の不足には、膵臓のβ細胞からのインスリン分泌不全と、インスリンが作用する臓器でのインスリン抵抗性の2つの機序があります。

糖尿病は大きく1型と2型に分類されます:

  • 1型糖尿病:自己免疫による膵β細胞の破壊によりインスリンが絶対的に不足する
  • 2型糖尿病:インスリン分泌低下とインスリン抵抗性が複合的に関与し、生活習慣や加齢が影響する

本資料では、日本人に最も多く見られ、食事との関連が深い2型糖尿病に焦点を当てています。

糖尿病の予防と管理における食事の重要性

糖尿病の治療目標は、高血糖を是正し、全身の代謝状態を良好に保つことで、合併症や併存症の発症と重症化を予防し、健康な人と変わらない寿命とQOLを確保することです。この目標達成には、適切な食事療法が不可欠です。

特に2型糖尿病では、総エネルギー摂取量の適正化を通じて肥満を解消することが、高血糖だけでなく様々な病態の改善につながります。ただし、糖尿病患者の病態や併存する臓器障害は多様化しているため、画一的な栄養素摂取比率を設定するのではなく、個々の患者に合わせた対応が求められます。

糖尿病と関連の深い栄養素

エネルギー摂取量と目標体重

2型糖尿病では、インスリン抵抗性の予防と改善を目的に、総エネルギー摂取量の適正化が重要です。目標体重の設定には、BMI(Body Mass Index)が用いられますが、最新の研究では以下のような知見が得られています:

  • 日本人の2型糖尿病患者では、BMI 20~25 kg/m²の範囲で総死亡率が最も低い
  • 75歳以上の高齢者では、BMI 25 kg/m²以上でも死亡率の増加は見られない
  • BMIだけでなく、体脂肪率や代謝状態も考慮する必要がある

これらの知見を踏まえ、目標体重の設定には個別化が必要とされています。

炭水化物

炭水化物摂取量と糖尿病発症リスクの関係は明確ではありませんが、2型糖尿病患者の血糖コントロールに関しては、以下のような知見が報告されています:

  • 短期間(6~12か月)の炭水化物制限は、HbA1c値の改善に効果がある可能性がある
  • 日本人を対象とした研究では、1日130g程度の炭水化物制限で血糖コントロールの改善が見られた

ただし、極端な炭水化物制限は長期的な遵守性や安全性に課題があるため、注意が必要です。

たんぱく質

たんぱく質摂取と糖尿病リスクについては、以下のような報告があります:

  • 動物性たんぱく質の過剰摂取は糖尿病発症リスクを高める可能性がある
  • 植物性たんぱく質への置き換えで、2型糖尿病の発症リスクが軽減される可能性がある

ただし、これらの知見の多くは海外の研究に基づくものであり、日本人における適切なたんぱく質摂取量については、さらなる研究が必要とされています。

脂質

脂質摂取と糖尿病リスクについては、以下のような知見が得られています:

  • 総脂質摂取量と糖尿病発症リスクの関連は明確ではない
  • 飽和脂肪酸の過剰摂取は糖尿病発症リスクを高める可能性がある
  • 多価不飽和脂肪酸の摂取は、糖尿病発症リスクを低減する可能性がある

日本人を対象とした研究では、男性において総脂質、一価不飽和脂肪酸、n-3系脂肪酸の摂取が多いほど2型糖尿病の発症リスクが低いという報告もあります。

食物繊維

食物繊維摂取の有用性については、多くの研究で支持されています:

  • 2型糖尿病患者における積極的な食物繊維摂取は、血糖コントロールの改善に有効
  • 水溶性食物繊維の高摂取は、HbA1c値や空腹時血糖値、食後2時間血糖値の低下に効果がある

日本糖尿病学会のガイドラインでは、1日20~25gの食物繊維摂取を現実的な目標としています。

アルコール

アルコール摂取と糖尿病リスクの関係については、以下のような報告があります:

  • 適度なアルコール摂取(1日10~25g程度)は、糖尿病発症リスクを低下させる可能性がある
  • 過度なアルコール摂取(1日50~60g以上)は、糖尿病発症リスクを増加させる

ただし、これらの知見の多くは欧米人を対象とした研究に基づくものであり、日本人では異なる傾向が見られる可能性があります。日本糖尿病学会のガイドラインでは、アルコール摂取の上限を1日25gとしています。

個別化の重要性

糖尿病の食事療法において、最も強調されているのが個別化の重要性です。患者の年齢、性別、体格、生活習慣、併存疾患などを考慮し、それぞれに適した食事療法を提案することが求められます。

特に注意すべき点として以下が挙げられます:

  • 高齢者では、過度な栄養制限によるサルコペニアや低栄養のリスクを考慮する
  • 腎症を合併している場合は、たんぱく質や塩分の摂取に注意が必要
  • 心血管疾患リスクの高い患者では、脂質摂取の質と量に特に注意を払う

まとめ

今回公表された資料は、糖尿病と食事の関連性について、最新の科学的知見を総合的にまとめたものです。特に日本人の食生活や体質を考慮した内容となっており、日本の医療現場で直接活用できる情報が盛り込まれています。

糖尿病の予防と管理において、適切な食事療法は極めて重要です。しかし、画一的なアプローチではなく、個々の患者の状況に応じた個別化が必要であることが強調されています。

医療従事者は、この資料を参考にしつつ、患者一人ひとりに最適な食事指導を行うことが求められます。また、糖尿病患者やそのリスクがある方々も、自身の食生活を見直す際の参考にすることができるでしょう。

今後も、日本人を対象とした研究がさらに進み、より精緻な食事指針が策定されることが期待されます。糖尿病の予防と管理における食事の重要性を認識し、健康的な食生活を心がけることが、個人の健康維持と社会の医療費削減につながるのです。

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